Commentaries on the Wargames

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【映画】西部戦線異状なし

1930年版がBSで放送されていたものを録画して年始の暇な時に見ていた。

 

カラーではなく白黒映画で第1次世界大戦にドイツ軍として志願した若者たちを中心に物語が進んでいく。

映画の冒頭、学校の教師が勇ましい演説を行いそれに感化された生徒たちが軍に志願する場面。そして仲間の負傷や死、砲撃や戦闘を経て現実を直視した元生徒は兵士として故郷に戻る。

そして老人が英雄を語り、若者が現実を語る。

かつての元生徒は「戦争は負け」だと語り、故郷で卑怯者と詰られる。

戦争を直視した若者にとってはもはや銃後の世界は受け入れがたい場所となってしまっていたのだ。

 

第1次世界大戦の塹壕戦の悲惨さは有名な話だが、まさに一般的な人間目線で塹壕戦を描いている。

だがその悲惨さの中でも戦友との交流がある。決して孤独ではない。

しかし少年の故郷に住む銃後の人々にとっては「勝利的な英雄譚」以外は存在してはならない。そこでは悲惨さや敗北など考えの片隅にすら存在してすらいなかったのだ。

父も教師もそして後輩の生徒たちですら「本当の戦争」など見ていなかった。

 

映画のタイトル的にはこの「銃後」を表しているのではないだろうか。

銃や砲撃による若者の悲劇的な負傷・死すらも後方では「異常」でなくなっていくという異常さ。

教師の語る祖国への忠誠を「嘘」だと言い、そんな嘘のない前線を「通常」として戻っていく。そんなポールすらこの異常さの中に取り込まれてしまっているのではないでしょうか。

普通の若者の価値観・人生観すら戦争によって変えられてしまう。

そのポールは最後には蝶に手を伸ばした際に狙撃されて戦死する。

しかしこの戦争の敗北すら「教訓」ではなく「背後からの一撃」に変えてしまうドイツの未来を知っている身からすれば何とも虚しい物語である。

 

余談ではあるが、絶え間なく続く砲撃シーンでは我が家の猫が少しそわそわしていた。

ただそう見えただけかもしれないが。

しかし人間からしても嫌悪感を覚えるような音なので当時の兵士が精神的に異常をきたすのも何となく分かるような気がする。