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【読書感想記】「ガリア戦記」「十三世紀のハローワーク」「ヒトラーの経済政策」

高校時代に読書感想文を書いた「ガリア戦記

高校生だった当時の私でも、割と最近の私でも楽しく読むことが出来る作品だった。

ちなみに高校時代に購入したガリア戦記は一度引っ越しやらのゴタゴタで紛失し、最近また購入しなおしたので今手元にあるものは「2代目ガリア戦記」と言える。

ヘルウェティイ族の移動から始まりアルウェルニ族のウェルキンゲトリクスとの闘いまでの6年に渡る記録をユリウス・カエサルが書き、アレシア後の1年間から内乱記までの繋ぎ部分を当時カエサルの部下だったらしい人が書いた大名作です。

共和政ローマとかに興味のなかった私でもぐっと引き込まれるぐらいには面白いのですが、個人的にはサビヌス(とコッタ)の軍団が壊滅したところが印象に強く残っています。

カエサルの副官の1人であるサビヌスという人物が冬営中に攻撃を受けて軍団ごと壊滅するのですが、これはガリアでの戦争におけるローマ側の軍団が1個丸々壊滅するという数少ない大敗です。

冬季にはカエサルは自らの任地であるガリア・キサルピナ(アルプス以南のガリア地域・ローマ属州)に帰還していたのですが、この報告を受けて急遽ガリアでの対処を余儀なくされるという。

カエサルはサビヌスに対しては大敗直後には擁護して称賛したり、またしばらくすると一転して非難したりするのだが心中複雑な思いがあったことは間違いないだろう。

個人的には軍団壊滅という重大事の中で他の軍団を鼓舞するためにサビヌスを評価したり、後の時期ではサビヌスの軽挙を批判することで全将兵の気持ちの引き締めを図った、と解釈するに至った。(本当はただ単に冷静になって考えが変わっただけなのかもしれないが、カエサル本人の心境は不明である)

またカエサルの副官としてはラビエヌスも有名で、カエサルガリア戦争では重要な局面ではよくラビエヌスに大任を委ねたりしていましたが彼は後の内乱では元老院側に味方してカエサルを相手に戦うことになります。

アレシアの戦いは有名な戦いですがカエサル本人が詳細な描写でローマの包囲陣地の様子を書いています。

アレシアのガリア軍と解囲のために援軍に来たガリア軍の総勢30万を超える大軍(信憑性はともかく)を相手に壮絶な防衛線を行うローマ軍は4万~5万前後。まさに決死の戦いを制してカエサル率いるローマ軍が勝利を得ます。

ローマ側は2重に(包囲の内側と外側に)防御設備を築くという大がかりな陣地を構築するのですが突貫工事的にそれを作り上げる当時のローマ兵の凄まじさを実感できます。

このガリア戦記からローマ軍の編成とか装備なんかにも興味を持つのですが、ピルム・ムルスの話は過去記事でもしたような気がするので割愛。

信長の野望烈風伝の「諸王の戦い」にもユリウス・カエサルが登場しますが全能力が凄まじく高い。

 

そして「十三世紀のハローワーク

数年前に購入した本でRPGとかSRPG風に中世の頃にあった職業の解説や紹介をしている本ですが3000円ぐらいだったので本としては割と高め。

表紙のSRPG風絵柄に惹かれて購入したものです。

この本を読んで初めて知ったのですが、中世ヨーロッパなんかには盗賊騎士という騎士でありながら盗賊紛いの行為を行って生計を立てているようなこともあったようです。そうして今度は盗賊騎士で調べるとゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンという騎士が出てくるのですが彼の名前は後に第17SS装甲擲弾兵師団の名称にもなるという……

ちなみに第8SS騎兵師団フロリアンガイエルの名称にあるフロリアンガイエルという人物も上記のベルリヒンゲンとドイツ農民戦争絡みの人物でもある。

それはともかくとして、他にも傘貸屋とかランツクネヒトとか様々な職業が紹介されていたのですが、一般的な生活に近い職業から前述の盗賊騎士まで結構幅広く紹介されていたので興味深い。

イラストのポップさからゲーム・漫画・アニメ寄りな感じを連想するのですが、著者が中世の職業を調べる際に膨大な資料にあたったことが分かるというぐらいには中身のしっかり詰まった作品です。

まあ中世的ファンタジーが好きな人にもハマるのではないかという作品です。

しかしかなり大型の本なので縦にすると本棚には入らない……読むのも少し大変でしたね。

 

最後は「ヒトラーの経済政策

(最初はタイトルを伏字にするべきかどうか迷ったのだが伏せないことにした。一応本のタイトルなので検索しやすいようにもしておいたほうが良いのではないかと思った)

タイトルも表紙もがっつりあの人ですが、本の内容はシャハトに関する話がほとんどを占める。

要は「ヒトラーが経済政策を(途中まで)任せてたシャハトの経済観の凄さ」という感じの内容ですが、再軍備による軍事費増大に反発するとシャハトは政権の中枢からは排除されてしまう。(一応途中まで無任所大臣として政権には残る。その後7月20日事件に関与したとされて以降は強制収容所に入れられてしまう)

その後はご存じの通り戦争でドイツそのものがボロボロになっていく。

ナチスという存在が登場する前から経済界では実力を発揮していたシャハトによるドイツ立て直し物語のような内容となっています。

ドイツ立て直しに関してはまず間違いなく多くの部分においてはシャハトの功績があるのだが、しかしIQ143(加点有り)という天才すらも戦争終盤では収容所に、というのがまさにあの時代のドイツという国家を物語っています。

大きく黒字を出さずとも相手国に赤字を出させないように均衡の取れた貿易を行ったり、ドイツと同じく不況で苦しむ東欧の国と資源と製品で物々交換的貿易を行うなどという方針を編み出して外貨不足や不況に対応していく。

よくある片方だけが儲かればいい、というような考え方を敢てせず両者Win-Winの関係を築こうというシャハトの試みはとても興味深い。

お金がだぶついて物価が高騰するハイパーインフレの状況にあって資源や製品といった物を増やすことを目的として尽力するのですが、結局再軍備によって人・物・金を戦争に注ぎ込んでしまい、そしてさらに人と物と金を獲得するための戦争という流れで「略奪戦争」と化していくという。

このように経済と国家、または経済と戦争は切っても切り離せない要素である。

ドイツを含めた国内外におけるWW2の時点での経済的観点を解説しつつ(ナチスの善悪はともかく、と著者は前置きしているヒトラー政権の政策を詳しく記述している点はとても勉強になる。

まさにナチス台頭前夜の失業者数などは有名な話ではあると思うのだが、ナチスの功績として扱われる部分におけるシャハトの貢献はとても大きかったのである。もちろんニュルンベルク裁判においてもシャハトとナチスの(再軍備までの)蜜月さが批判されていることは言うまでもない。

個人的には「独裁国家のくせに妙に国民の顔色を伺ったような政策を行う」ところにナチスの病的な合理性が表れていると思う。すなわち結果を出して支持を最大化させることがもっとも効率的であることを理解していたのである。しかしそれも後年にはさらに効率的に結果を求めて戦争に邁進する。

こんな風にある種の合理性・効率性に基づいて国益を追求したらどうなるのか、そして目的のために手段を選ばなければどうなるのか(この点はマキャベリズム的とも言えるが)というのがナチスの歴史的帰結であるのかもしれない。